微庵の論語メモ

現代語訳は可能な限り原文に忠実に、かつ分かり易くを心がけております。

レガシーコストを付着させない

レガシーコストという言葉があります。
レガシーはlegacy(遺産)。コストはcost(負担)。
意味としては、「過去のしがらみから生じる負担」ということになるそうです。
 

日本航空は、業績が急回復したといいます。
同社には、OBへの過大な年金支給というレガシーコストがあったようです。
同社の業績急回復は、これを取っ払ったことが一因と思われます。
 

レガシーコストを取っ払って業績が急回復したのは、
過去には、日産自動車の例もありました。
日産自動車のレガシーコストは、取引先の部品会社との馴れ合いであったようです。。
 

JALも日産も、
経営破綻という極端なところまで追い詰められて、
ようやくレガシーコストを取り払うことができました。
 

大学にある、こんな言葉を思い出します。
 

(こ)の故(ゆえ)に、君子は其(そ)の極(きょく)を用いざる所無し。(仮名大学7頁)
 
「このため、君子は、極端なことをする必要がなかった」と読めます。
 
 
なぜ極端なことをする必要がなかったのでしょうか。
上の大学の言葉は、こんな言葉を受けています。
 

(とう)の盤(ばん)の銘(めい)に曰わく、苟(まこと)に日(ひ)に新(あら)た日日(ひび)に新たに、又(また)(ひ)に新たならんと。
康誥
(こうこう)に曰わく、新たにする民を作(おこ)すと。
詩に曰わく、周は旧邦なりと雖
(いえど)も、其の命(めい)(こ)れ新たなりと。
(仮名大学6頁)
殷王朝の初代・湯王が使っていた洗面器には、「本当に毎日、物事を刷新して停滞することがないように」という言葉が刻まれていた。
康誥(書経の一篇)には、「自分から進んで物事を刷新できるような民をつくる」という言葉がある。
詩経には、「周王朝は古い伝統ある国であるが、その命令は新鮮である(的を射たものである)」という言葉がある。
 
 
つまり、上に立つ者が現状に停滞することなく毎日刷新する。
そして、下で従う者も自分から進んで物事を刷新する。
そうすると、たとえ組織は古くなっても、その組織の為すことは新鮮で的を射たものになる。
それゆえに、組織が崩壊寸前になるという極端なところまで至らずに済む、ということになるかと思います。
 
 

現状に停滞すること、つまり現状維持は確かに楽です。
しかし、その楽に安心して、刷新を怠っていると、
レガシーコストが付着してしまうのでしょう。
 

刷新の方法について、
論語には、曽子のこんな言葉があります。
 

曽子曰わく、吾(われ)(ひ)に吾(わ)が身を三省す。人の為に謀(はか)りて忠ならざるか、朋友と交わりて信ならざるか、習わざるを伝うるか。(学而第一・仮名論語2頁)
曽先生が言いました。
「私は、自分自身を何度も省みて、間違っていると思ったら、それを省くようにしている。たとえば、相談ごとに誠心誠意に対応したかどうか、友だちに嘘や偽りを言わなかったかどうか、そしてまだ習得できていないようなことを人に教えてしまわなかったかどうか。」
 

大学は、曽子がつくったと言われます。
曽子は、孔子の愛弟子です。
曽子が大学で言っている「刷新」とは、
「自分自身を何度も省みて、間違っていると思ったら、それを省く」ことなのかも知れません。